◇バランス、繰り返し、少し横
◆ある日のこと。ミコと僕は、同期同士の結婚式の幹事を頼まれ、二次会会場に二人で打ち合わせに向かった。
その日は、結婚式の前祝い会で、同期11人で集まっていた。
そこから少しだけ早く帰って二人で出かけたのだけど、二人で駅まで歩きながらお互いの彼氏や彼女の話ばかりしていた

京都市役所前行きの東西線の中で、ミコは「眠い」と言ったので、僕は「寝とき」と言った。
すると、彼女は「うん」と答え、僕の肩に頭をのせて眠っていた。
僕は少し混乱したけれど、お互いに彼氏や彼女がいることは知っているので、まぁいいか、と思った。
僕も少し眠くなって目を閉じた。
駅に着くと、軽く彼女の手を触って目覚めさせると、「駅に着いたよ」と言った。
少しだけ離れてスタスタと僕は歩き、多分少しだけわざとらしかったのかもしれない。
とりあえず、毅然とした大人であることを求められているような気がしたのだ。
求められていることを実行する必要はないのかもしれないけれど。
◆夜の8時にアポイントを取っていたので、少し前にお店に着き、打ち合わせが終わると、そのお店に席を取り、二人で一杯ずつだけお酒を飲んだ。
だいたいはお互いの彼氏や彼女の話をした。
ミコは僕の彼女と同じ部屋で働いている。
ミコは「彼女さんに悪いなぁ」と笑いながら言った。
僕はミコの彼氏とは会ったことがなかった。
ミコの彼氏は今日は、会社関係で、男女3-3で飲んでいるとのことだった。
「浮気してるかもよ、チューとかしてるかも」と僕が言うと、「チューはあかんな、ほっぺにチューぐらいならいいけど」と言った。
じゃぁ、僕にもほっぺにチューぐらいならできるの?と言うと、ミコは「できるよ」と言った。
「じゃぁ、してくれよん」とかバカっぽく言ってもよかったけれど、それはどうもよくないような気がした。
それによってバランスの支点がずれ、誰にとっても何も生み出さない代わりに、いろいろなものを吸い取ってしまうことのように思えた。
◆その他にも、結婚前の同期同士の間に子供ができたこともあり、「避妊は大事だ」とか話をしていた。
他にも、「○○くんはしないらしい、と聞いたことがある」とか「私の彼氏はちゃんとしてくれるよ」とか話していた。
また、ミコは彼氏と11年もつき合っているのだけれど、その間に浮気がばれて、離れていた時期がある、と聞いたりもした。
僕は「うちの彼女には負けるけれど、ミコのアホがわいさは僕の好みのところだ」と言い、続けて「褒めてるんだよ」と言った。
言うまでもなく、褒めていることはわかってくれていたようだった。
◆僕は少しだけ思い切って、彼女のお父さんのことを聞いた。
彼女はお母さんと二人暮らしをしている、と聞いていたからだ。
いつも通りのことなのだけれど、聞きにくいことはわかりにくい質問になっていた。
「おっちゃんはどうしてんの?」と聞くと、彼女は「おっちゃんて誰?」と聞いた。
やっぱりちゃんと言わなくちゃ伝わらないよな、と思いながら「お父さんは生きてはんの?」と言い直した。
彼女は少しだけにっこりすると「お父さんは死んじゃったの。大学生の時に」と答えた。
そして続けて、「その時は悲しかったけれど、今は大丈夫」と言った。
僕は十分な言葉を持ちあわせていないような気がして、柔らかい気持ちのまま何も言わないことにした。
◆店を出て、三条駅に向かって歩いていると、ミコは僕に「鳥越くんて左側だよね、歩くとき」と言った。
僕も彼女に、「ミコも歩くときって左側だよね、僕もそうだけど」と言った。
反対だと首がふりむきにくいんだよな、と僕が言うと、彼女は手がつなぎにくいし、と言った。
それで僕は手をつなぎたいな、と少し思ったけれど、手の甲をほんの少しすりあわせるだけにした。
その日「また二人でご飯でも食べようね」と言って僕らは別れた。
「チューしない程度に、お互いの彼氏彼女におこられたりしない程度にね」と言って別れ、別々な電車の駅に向かった。
◆電車の中で再び目を閉じて眠り、目を覚ました。
いい一日を終えた、と思って何か余韻に浸っていた。
ふと、周りを見渡すと、何か空気が深夜の空気とは違うのに気づいた。
電車の中には、人が多く、そして静謐だった。
「あれ今何時だっけ?」と思って、時計を見ると、まだ時間は夕方だった。
振り返ると、僕の横には別れたはずのミコが僕の肩の上でまだ眠っていた。
「もう一回やりなおしか」僕は独り言を言い、彼女の手を触って目覚めさせた。


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