【流体と黒猫】episode-5:隙間、呼ぶ声、分かれ目

◇隙間、呼ぶ声、分かれ目

◆僕は猫の声に呼ばれて壁に近づいていった。
壁には縦に割れた隙間があった。

隙間は小さく、通り抜けることは絶対に不可能だった。
隙間の向こうは暗く何があるか見えなかった。
猫の声がただ響いてくるだけで、何も見えなかった。

僕は隙間の横の壁にもたれて座り込んだ。
猫が出てくるかも、と座り込んで待っていた。
猫はただひたすら鳴き続けていた。
猫の声は変わらず僕を呼び続けている気がした。

しばらく上を見上げながら僕の前に猫が出てくるのを待っていた。
出てきたらどうしようか考えてばかりいた。
考えつかれたあげく、もう猫が出てくることはないのだろう、と僕は感じた。
猫は呼び続けるだけで出てくるつもりはないのだ、と思った。

僕の方からなんとかするしかないのだろう。
だけど、たとえ何かしたとしても、 結局、黒猫は気まぐれに僕をいらだたせるのだろう、と思った。
僕は、待っていても黒猫が出てこないとわかっていて、 ただ壁にもたれて待つことにした。

ただ待っていると、本当は僕には何もできない気がした。
何もしないのがいいのだ、と思った。

壁にもたれているうちに、壁にだんだんと体がめりこんできた。
いつの間にか壁が流れやすくなっていたらしかった。
そのまま僕は背中から壁に潜り込んでいった。
僕は猫のいる方向へ流れていこうと思った。

壁は流れはじめ、僕は斜め下の方へと取り込まれて行った。
猫の呼ぶ声が聞こえた気がした。
聞こえた気がしただけだ、と思った。

自分に言い聞かせすぎかもしれない、と思った。

楽天広告

流体と黒猫

コメント