【流体と黒猫】episode-16:紋章

◇episode-16:紋章

◆僕は、太陽を見上げた。
太陽は壁に隠れようとしていた。
壁はとても高く空の大部分を塞いでいた。

壁はレンガ積みで、もたれていた壁には紋章のようなものが見えた。
紋章は鳥をかたどったものだった。
鳥の種類までは僕にはわからなかった。

手をのばして、紋章にふれた。
紋章はほのかに暖かく、波打つ体温のようなものが感じられた。
目を閉じて、波を体に取り込もうとした。

不意に後ろで、音が聞こえた。
僕は反射的に振り返ったけれど、もうそこには何の姿もなかった。
何もいなかったけれど、音は鳥の羽ばたく音だったような気がした。

紋章の方へと振り返って、再び手を伸ばした。
伸ばした手の先に見えた紋章は少しくたびれているように思えた。
手をあてても何も感じられないような気がした。

手をあてて何もないのを確認するよりも僕は立ち去ることを選んだ。

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流体と黒猫

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