【流体と黒猫】episode-12:後ろ姿、変化

◇episode-12:後ろ姿、変化

◆猫が行ってしまう前に僕は目を閉じた。
立ち去るのが見たくなかったからかもしれない。何も見ない方がましだと思ったからかもしれない。

僕は目を閉じていたけれど、目を閉じているだけでは何も伝わらないのはわかりきっていた。
何も伝えられないのはつらいけれど、目は閉じたままでいた。
猫が僕の体から足をあげようとしているのを感じた。目を閉じていてもそれぐらいはわかる。

僕の着ている服に猫の爪がひっかかっていた。猫の足はうまく僕から離れなかった。
猫は僕に爪を立てた。
僕は猫の足がうまく離れるように、猫を押さえつけたり、足を持って爪をひとつひとつ離そうとした。

僕は猫を僕の体から離そうとしていたけれど、不意に考え直した。
僕はしばらく手も触れられずに猫を見つめていた。猫は大人しくなると僕を振り返った。

僕は上から猫を軽く抱いた。背中をなでた。
猫は大人しく座っていた。
あまりに大人しく座っていたので、僕は少しひっかかった。
本質的に間違ったことをした気がした。何かを失う気がした。
僕も猫も世界も全てが少しずつ大切な何かを失っていく気がした。
掴んだものを押し返せばいいのかもしれないけれど、それはできないことだった。
少なくとも簡単にはできないことだった。

簡単じゃなくてもすべきことはある。

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流体と黒猫

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