◇episode-10:壁
◆僕は狭い空間に閉じこめられ続けていて、やっと開かれた世界へと足を踏み入れた。前途は明るく思えたけれど、何故か僕は動き出すことをためらっていた。何か動き出す前にすべきことがあるような気がした。
座り込んで上を見上げた。見上げると天井は思ったよりもずっと高いらしく、壁は暗闇の中に溶けていき、終わりが見えなかった。
◆なんだか動き出す前にこれまでにあったことを全部把握してしまう必要があるように感じた。
何もかもちゃんと把握できていなければ、誰かを取り返しがつかないぐらい傷つけてしまうことになる気がした。
きっと自分自身も傷つけてしまうのだろう。いつか取り返しが付かないことが起きる気がした。
把握すること。簡単なように思えたけれど、実際やってみると思うようにはいかなかった。
僕は実際にあったことを整理して分類して把握しようとしていた。
できるだけ把握しやすくしたあと考えてみたり、頭の中から結論が飛び出てくるのを待ったりした。
わかったことにはわかったと、わからなかったことには「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」と書いた付箋を貼り付けて、できる限り把握しようとしていた。
全てのものに付箋を貼り付けるのは気の遠くなるような作業だった。
◆途中で何度もこれで十分考え終わったのじゃないかと思ったけれど、そのたびに把握できていないことがまだまだ多すぎる気がしてためらった。
立ち上がりかけては動き出すのをためらった。
本当はただ動き出すのが怖いだけかもしれない。把握できていない世界へと進むことが怖いのかもしれない。
あるいは、広い世界の中で選択を迫られながら進んでいくことが怖いのかもしれない。



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