◇episode-6:液体、光球、伝わるもの

◆僕は液体の中を流れていた。 僕を呼ぶ声の方へ流れようとしたけれど、 それは無理な話らしかった。
僕にできることなんて何もない、と思った。
僕はただ流されていくだけだった。
どこかにまた流れつくのだろう、と思った。
流れの中で、僕は液体に取り込まれ、 少し息苦しかった。
息苦しいながらも、液体は僕の体の中に流れ込んではこなかった。 僕の体の周りには空気の層ができているようだった。
僕の体は、空気の層ごと、液体の中をつつまれるように流れていった。
体を動かそうと力を入れると、液体はやわらかく押し返してきた。
少しずつ体勢を変えることが僕にできる最大限のことだった。
◆液体はうすい緑色で半透明だった。
流れている間、液体は光を発しているようだった。
液体はゆっくりとしたペースで明るさを変えていた。
ところどころ明るい部分が球のように浮かんでは消えていった。
一部分だけまるく明るく光ったかと思うと、 光の球はふっと浮かび上がるように移動した。
移動するとすぐに周りにとけ込むように光球は消えていった。
僕は流され続けて方向感覚を失うにしたがって、 光の球が動く方向を上だと思うようになった。
それが本当に上なのかどうかはわからなかった。
光の球が浮かぶのを見ていると、 頭の中で音楽が響いてくるような気がした。
音楽が僕の中に伝わってきた。
僕は液体の中に流れる音楽を自分の中に取り込んでいた。


コメント